極上旦那様ととろ甘契約結婚
「え?」

「理由。だって福永さん、仕事出来るし評価も良いから。切られる理由がないでしょ?」

「んーそうですね、ざっくり説明するともらい事故みたいなものです」

あまりに直球過ぎる聞き方に、こちらだけ気を遣って曖昧な返事で大人の対応をするのが馬鹿馬鹿しくなって、いつもならしない砕けた返事を返す。

「もらい事故?」

「はい、もらい事故です」

発端は隣の部署で派遣社員を一人減らす事になったからだ。切られるはずの派遣社員の女性が実は取締役の息子の恋人で、辞めたくないと彼氏に泣いたらしい。どうにかしてと恋人に尻を叩かれた息子はパパに泣きつき、息子に甘い取締役は辞めさせる訳にいかないと人事に横ヤリを入れた。そして巡り巡って私が辞めさせられる事になったのだそうだ。
この状況なら「もらい事故」という説明が一番合っていると思う。

「それは……本当の話?」

突拍子もない話に流石に驚いたのだろう。いつもは表情が出ないのに、メタリックの眼鏡の奥で瞳が少し見開かれた。珍しい。

「本当ですよ。今日、派遣会社の担当が来て言われました。先週の面談の時に『三年越えて無期雇用になりそうだ』って言われたトコだったんで、ごねて理由言わせたんで」

「信じられないな……」
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