極上旦那様ととろ甘契約結婚
「レンタカーじゃなかったら、砂浜を散歩してくれたんだろ?」

「砂浜、ですか?それって……あっ」

言われてやっと、十分ほど前のやり取りを思い出した。
一緒に砂浜に降りて散歩しようと誘ってくれた修吾さんに私は「レンタカーに砂が入ってしまうから」と断ったのだ。

「あの、そんなに砂浜を散歩したかった、ですか?」

「うん、したかった。不安定な足場で成美がふらついたら自然に手だって繋げたし、足が濡れたらおぶってあげたかった」

「や、あの、そんなドラマみたいな展開はない、ですよ?」

この人は急に何をいっているのだろう。職場ではいつも腹が立つくらい論理的で、家でだって多少砕けたとはいえ、こんな脳内にお花が咲いてるような事は言わなかったはずだ。
何か悪いものでも食べたのかと心配してもう一度顔を覗き込んで、私は瞬時に魅入られた。

そこには悪戯が成功したと喜ぶ少年のような笑顔と見つめる相手が大切でたまらないという青年の微笑みが入り混じった、とてつもなく蠱惑的な表情があった。

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