極上旦那様ととろ甘契約結婚
という事は、柔らかくなった空気の理由は私との生活ではないんだろうか。近くなったと思ったのは思い上がりだったのだろうか。
悶々と考えていたはずなのに、でも炊飯器のセットをしながら私が気付いたのは全く別の事だった。

「ーーーやっぱり泣けない、な」

海で修吾さんに話を聞いてもらって、少しは素直になれたつもりだったのに。感情を出せるようになったと思ったのに。
こんなに苦しくて不安なのに、私の瞳は一粒の涙さえ零せやしない。相変わらずなんて意地っ張りな涙腺なんだろう。

「でも泣いても大丈夫って言ってくれる人はいないんだから、泣けないほうがいいのか……」




人に頼れないままだからきっと傷も浅くて済むはずだと自分を納得させて無心に作った料理は、皮肉なことに修吾さんにとても好評だった。

「うん、美味い。いつもよりジューシーな気がする」

「……よく捏ねたから、ですかね」

しっかり捏ねられたハンバーグが美味しいって本当らしい。私は、今はちっとも味を感じないから分からないけど。

「成美は元々料理が上手だったのに、最近更に腕を上げたな」

< 75 / 133 >

この作品をシェア

pagetop