極上旦那様ととろ甘契約結婚
それからは、きちんと着替えてしっかりと食事も取った。家事もいつもより念入りにして、自室も整頓し、すぐに必要で無いものは段ボールにしまってどんな状況にもすぐに対処出来るようにした。つまり、修吾さんが恋愛結婚を望んでいない以上は高い確率で振られると予想して、すぐに引っ越していける状態にしたのだ。

かなり弱気の行動ではあるけれど、特に悲観的は訳ではない。だって、

「分からない事なんて不安じゃないもの」

記憶と一緒だ。私の気持ちが、これまでが、なくなる訳じゃない。たとえ解決出来なくても、望んだ方向に進めなくても、道はあるのだから怖くはない。
だからみっともなくても、我儘でも進んでみれば良いのだ。

そうやって過ごして、気がつけば外はもう暗くて。今夜も帰ってこないのかとダイニングテーブル上のスマホを見つめた時、急に振動と共に着信音が響いた。

スマホを拾い上げた私は、掛けてきた相手を確認して急いで通話をタップする。

「もしもし?」

問いかけても「修吾さん」と表示したままのスマホからは応答が聞こえなくて、私は声を大きくする。

「もしもし?修吾さん?」

『ーーーあ、ごめんなさい。修吾じゃないんです』

電話の向こうから聞こえたのは上品な大人な女性の声音で、私の身体にぞくりっと震えが走った。

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