僕の家族はなによりも…。
「よーし、戻ってきたっ」
エレベーターから降りると、由紀は思い切り伸びをする。
相変わらず、のんきな性格だ。
周りは死体の山だというのに。
「行こっか、もう時間がそんなにないし」
「…うん。ねえ、由紀」
「んー?」
「…廊下に倒れてた真莉を運んだのって由紀でしょ」
「……そんなことあったっけ?」
由紀はしらばっくれているけど、僕はわかっていた。
倒れていた真莉を見つけた由紀は、そのまま抱き上げてベッドルームに寝かせた。
真莉はそれを知らなかったみたいだけど…。
「ま、あの子がもし倒れていたとしたら最優先で助けにいくかもね」
「そうだね…誰とか限らずだけど」
二人で廊下を歩きながら、話を続ける。
「私さ、やっぱり小波ちゃんの娘だね。梨乃の初恋の相手、真莉ちゃんのことめっちゃ気に入ってるもん」
「初恋の相手って…、普通に真莉でいいのに」
「あは、そうだねっ。」
出入り口につくと、開いた扉から外を見つめる。
「綺麗な外。こことは全く違うね」
「…うん」
「…どうして梨乃はここに残ったの?一緒に行けば良かったのに。そのチャンスは二度もあった。それなのに、なんで…」
「由紀が寂しくなるでしょ?だから残った」
「…バカみたい。やっぱりあんたはよくわからないし」
「…ふふっ、そうかな?」
由紀は強がる癖があって、だけどひとりで何もかも抱え込んでいた。
ちょうど、7年前のあの時……僕は母さんに由紀を守る目的で研究材料になることを志願した。
だけど、そんな目的ですら母さんは許さなかった。
嫌がる由紀を無理矢理、研究材料にさせた。
そんなことをしたら、僕が自ら志願した意味がなくなるのに。
「りーの、全部聞こえてるよ」
「…ごめん、考え事してた」
由紀の持つ特殊能力は、『相手の心の声を聞き分ける』というものだった。
あの時、母さんに飲まされた薬でそうなってしまったんだろう。
だけど、由紀はそれをうまく利用した。
さすが、使いこなしのプロだ。
「梨乃、小波ちゃんとここのことは任せて。あんたは早く逃げな」
「由紀はどうするつもりなの…?」
「…私はここからは出られない。今までは、梨乃を生かすためにしていたことだから。
梨乃がここから出ることができるのなら、私の生きる意味は無くなるでしょう?」
「由紀は、本当にそれでいいわけ?またひとりで我慢とかしてないの?」
「我慢はしてるよ。死ぬのなんて……、本当に怖いし」
由紀の手から、銀色のナイフが光った。
「梨乃…ありがとう。私をずっと守ってくれて。でも、もう楽にしていいんだよ。『福井由紀』という名に縛られてたのも事実でしょう。これは私の罪でもあるから」
「…由紀」
「…梨乃は、ここから出たら私のことを忘れちゃうのかな」
「忘れないよ、僕は特別感染ウイルスで特殊能力を得たわけじゃない」
「…そっか。なら良かった」