僕の家族はなによりも…。
「あぁ…残念。もう少しで当たるのに」
「どうして……、母さんはこんなことをするの?」
「どうして?うーん、そうねぇ……。楽しい、から?」
「…狂ってる」
僕は母さんに聞こえない声でそう呟いた。
母さんは落ち着いた人で、とても優しい性格だったのに。
いや…、だからこそってこと?
優しい母親は怪しいってことなの?
真莉ちゃん、必ずここから生きて出してあげるからね。
死なせたりなんかしないから。
僕は心でそう強く決めると、真莉ちゃんを連れて走った。
「梨乃!いい子だから言うことを聞きなさい!!」
バンッ!!バンッ!!
「…っ」
咄嗟に隠れたドアに、ぽっかりと穴が空いた。
そのまま、地下室へと向かう。
地下室へはしばらく行っていない。
だけど、扉が頑丈だから母さんから逃げるのにはちょうど良い。
トントンッと階段を降りていく。
重たい扉を開くと、すぐに閉めて鍵をかけた。
「梨乃ー?どこにいるの?」
上で母さんの声がする。
怖い……。
口元を押さえて、叫ばないようにする。
この地下室は、物置にされている。
だから、物騒なものなんて置いていないし……。
そばに置いてあった使わなくなった毛布を手に取ると、埃を払う。
そして、それで真莉ちゃんを包んだ。
これで、寒くないかな。
真莉ちゃんは目を覚まさない。いや……。
今は覚ましてほしくない。
こんな危険な状態を見たら、恐怖に襲われてしまうだろうから。
うさぎのぬいぐるみだってリビングの床に落ちたままだ。
きっと、不安でしかない。
「梨乃!お母さん反省したわ!その子は殺さない、生きてちゃんとここから出すから!!」
母さんの声がさっきよりも大きく聞こえて、恐怖が大きくなる。
「ひっ…」
口元を押さえる手に力が入る。
叫んではいけない、母さんに居場所を知らせることになってしまう。
「……ん……かあ…さん…」
僕がもっと大人だったら…、このまま母さんを止めることが出来たかもしれないのに。
母さんだって、こんなこと望んでいないはずだ。
真莉ちゃんを背中に背負うと、地下室の奥へと歩みを進めた。
母さん、もう少しだけ。
もう少しだけ我慢してくれないかな。
母さんの殺意と、口から溢れて止まらない偽りをやめさせるから。