僕の家族はなによりも…。
「由紀……由紀っ!!」
部屋の中には、大きな手術台。
そして、いくつもの割れた瓶。
割れた瓶から、青色や、白くて透明な液体が溢れていた。
僕は部屋の入り口に真莉ちゃんを降ろし、手術台に駆け寄る。
テープで拘束されている由紀の意識はほとんど無く、朦朧としていた。
「ゆ…き…っ……」
テープを剥がして、そのいつもより小さく感じる身体を抱き締めた。
母さんの仕業だろうけど、今はそんなのどうだっていい。
僕の責任だ。
大切な家族を…由紀を守れなかった。
由紀の口や鼻からは白い液体が溢れている。
きっと、母さんに無理矢理飲まされたかなにか。
「っ…これだ」
はっとして、ズボンのポケットからあの小瓶を取り出す。
家付近に落ちていた薬の小瓶。
これは、由紀が飲んだもの。
少し残っているのは、由紀が飲まなくなったから。
母さんが森に捨てたんだろう。
だけど、僕が見つけて拾ってしまった。
この小瓶は…多分…。
「っ!!」
手に握り締めた小瓶を、向こうの床に投げた。
バリンッ!!という音を立てて小瓶は割れる。
そこから液体が流れる。
「だから言ったでしょう。母さんは、自分で止められないって」
背後から声がして振り返ると、真莉ちゃんの首もとに拳銃を向ける母さんが立っていた。
母さんの足音なんてわからなかった。
僕は、無我夢中で由紀に駆け寄っていたから。
「私は昔からの研究員よ。その割れてる小瓶の中の薬は全部毒。由紀はいい研究対象になってくれて、母さんとっても嬉しいわ」
にこにこと微笑むその笑顔に、もう恐怖は抱かない。
大切なものをなにひとつ守れなかった自分への怒りのほうが、よっぽど大きいからだ。
母さんだって、由紀だって守れなかった。
真莉ちゃんも、ひどい目にあっている。
「梨乃、どうか母さんを許してね。梨乃にも研究対象になってほしいの。もしそうなったら、今よりもっと裕福な生活ができるし…」
「いいよ」
「……え?」
もう意識がない由紀の身体をぎゅっと抱き締めると、母さんに微笑んだ。
「裕福な生活なんてどうだっていい。由紀の代わりに僕が研究対象になるよ。由紀を守るためだから」
「…梨乃、本当にいいの?」
「だけど、条件がある」
「条件?」
僕が出す条件はたったひとつしかない。
「その子を、生きて帰らせてあげて」