never (上)
「ところで、柚莉ちゃん?ここで住むらしいけど、大丈夫?夏目からは聞いているとは思うけど私たちヤクザなのよ?」
「ただのヤクザじゃない。ヤクザの世界を管理し、仕切っているのはこの山吹連合(やまぶき)の本部、榊組だ。榊組に出入りする女ってだけで狙われる確率が高い。それが若頭の夏目が目にかけているときたら、監禁程度では済まされない。それでもいいと言うのか?」
「普通の生活に戻れないかもしれないのよ?」
心配そうな目を向ける雅人さん、美夜さん。優しい瞳で見つめてくる夏目。
あぁ……温かい。
「……っっ!?柚莉?」
久しぶりに感じた家族というものの温もり。
私にもあった、この優しくて温かくてギュッと私を包み込んでくれる温度や感覚。
全てが懐かしい……。
全てが温かいのに……どこか、寂しいっ。
その感情が涙の粒となって私の頬を濡らす。
「私っ…親がいないんです」
「……っっ」
近くで癒される香りと息を呑む音が聞こえた。
それと共に微かな冷たい風が通り抜け私の身体を震わせる。
まるでこの先を言ってはならないと止められているような……。
「母はっ…私を産んだと同時に命を絶って、それを追うように…父もっ…二年後、病気でこの世を経ちましたっ。親戚に拾われましたけど、そこではいい生活とも言えないものでっ……高校に入ってからは一人暮らしを始めましたっ」
淡々と口から溢れ出す今までの孤独、悲情。
頭では、止まらないとっ…と思っているのに今まで溜めてきたものが一斉に出てくる。
「帰ってもっ…誰もいなくてっ。ご飯も…いつも1人でっ!!っっ…いっそのこと私も死のうと、何度も何度も思いましたっ………でもっ…その度に毎回出てくるのが父と母の顔で……もう、辛くて辛くてっ……」