ずるいひと
「いいよ、飲もうか」

優也は一瞬ベッドに腰かけようとしたが、床に座った。

私はやったね、と言って冷蔵庫からキンキンに冷えた日本酒を出して優也の前に置いた。

「ビールじゃなくて日本酒なの?」

「最近ブームなの」

彼はそうなの?と笑って、お猪口に日本酒を注いだ。

「お義兄さん、結婚式まであともう少しだね」
「お義兄さんってこっぱずかしいからやめてよ。今まで通り優也でいいよ」

「でも、亜貴が優ちゃんって呼んでるのに私が優也って呼んでるのおかしくない?」

優也は「そういうもんかな?」と言って日本酒を飲み干すから、すぐに注ぐ。
空きっ腹に日本酒を注ぎ込むと、食道から胃まで形が認識出来るほど熱くなっていく。

「優也は私のヒーローだったんだよ」

「え?」

「ずーっとそうなんだけど最初は、幼稚園の頃かな?いつもの空き地の奥の林で迷子になった時助けに来てくれたよね。で、私のことおぶって亜貴の手を引いてってくれたよねー。あれすごかったな」

「あーあれ?」と照れ臭そうに優也は笑った。

「私はおぶってもらったけど、手をつないでる亜貴が羨ましかったな」


え?と聞き返す優也の隣に座って、私は少し意地悪く笑いかける。

「優也は、なんで亜貴のこと好きになったの?きっかけは?」

優也は急に顔を真っ赤にして、ごにょごにょと言い淀む。

「きっかけはともかく…優しくていつも穏やかなところを好きになったんだよ」

ふーん、と私は答えて少しだけ優也と距離を詰める。

「優しいところかー……」

「あっ、真貴も優しいけどね」

そういうことじゃないんだけどな、と私は苦笑する。

「……好きになったきっかけって、寝てる間にキスされたからでしょ」

「えっ?!亜貴に聞いたの?」

優也の顔がみるみる赤くなっていくのは、日本酒だけのせいではない。

「いや、聞いてないけど。……図星?」

「やっぱり真貴には敵わないな。まぁ、きっかけはそうかな」

ちゃんと正直に言えばよかった。
それは、亜貴じゃなくて私だったんだよって。
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