夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
 いくつも私を包み込んで、春臣さんのことしか考えられなくなっていった。
 衣擦れが聞こえてシーツを握り締める。
 次のキスは首筋へ。鎖骨から胸元へ滑った。

「……ん」

 軽く肌を吸い上げられて声を上げる。

「痕……付けちゃだめですよ……」
「ここなら見えない」
「そういう問題じゃなくて……っ、ん」

 春臣さんが痕を付けている場所は、服を着た時にギリギリ襟と重なる場所だった。
 動かずにいれば見えないだろうけど、動けば何かの拍子に見られる可能性がある。
 止めなければと思う反面、もっと刻んでほしい気持ちもあった。
 春臣さんの特別を、数え切れないくらい与えてほしい。

「その顔、いいな」

 火照った頬を指でくすぐられる。

「かわいい」

 これまでに何度、そう囁かれてきただろう。
 その度に私はこの人を好きになる。

「私も……何か言いたいです……。春臣さんばっかりずるい……」
「そう言われても困るな」

 シーツから手を離し、苦笑いした春臣さんを抱き締める。
 もう背中に引っかき傷を付けてしまわないよう、優しく。

「――好きです」

 顔を見られたくないから、ぎゅっと抱き締めて耳元で言う。

「好きです。大好き」
「……奈子」
「好き……」

 私が感じている恥ずかしさと嬉しさを、春臣さんも存分に味わえばいいと思った。

「大好きです」

 何回か言った所で、私の想いの百万分の一も伝えきれない。

「春臣さん、好き――」
「こら」

 大きな手で口を塞がれる。
 暗闇の中でも分かった。春臣さんの顔が赤くなっている。

「いい加減にしろ」
「んんん」
「……いつもお前から言うのは何なんだ」
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