夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
なんとなく、春臣さんの胸に頭を預けてみる。
微かに感じる鼓動と春臣さんの匂い。耳元で空気の音が聞こえて、ときどき耳朶を吐息がかすめていく。
春臣さんの鼓動の速さに変化はないのに、私ばかり速くなっていくのを感じた。
そもそもどうしてこの人は今、私を抱き締めているのだろう。
気になる反面、聞いてしまえば律儀な春臣さんのことだから、私を解放してしまうかもしれない。
もう少しだけこうしていたい。まだ赤いであろう顔をまじまじと見られたくはないし。
そういうわけで、私は春臣さんの腕の中から動かなかった。
春臣さんもまた、私になにを言うわけでもなくじっとしていた。
「春臣さん」
「ん?」
「……なんでもないです」
(呼んでみたくて。……理由は自分でもわからないけど)
契約関係にある、形ばかりの夫婦。
でも私たちの間には、少なくとも他人以上のなにかがある――。