夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
(仕事は心配になるくらい真面目にやるし、日常生活でもしっかりした人だと思う。でも、ちょっと不思議というか天然というか……。たまに噛み合わないんだよね)
そういうところも結構好きだと言ったら、本人はどんな顔をするのだろうかと思う。恥ずかしいから思うだけで留めておくけれど。
らちが明かなそうだと判断し、料理に集中する。
漬け込んだ鶏肉をカリッと油で揚げ、きっちり中まで火を通す。昔はいちいち揚げている最中に中身を割ってみなければ火が通っているかどうかわからなかったけれど、今は感覚でわかるようになった。
ひとつ、ふたつ、と揚がった鶏肉をキッチンペーパーを敷いた皿の上に載せていく。いい香りがふんわり漂って、お腹がくうと音を立てた。
すべて皿に移動させてから火を止める。
出来立てを包丁で半分にし、振り返った。
「お味見どうですか?」
「ん」
びっくりするぐらい簡素な返事だったけれど、これももう慣れたものである。
春臣さんは無愛想だけど感情がないわけではない。あまり表情を動かさないだけで、意外といろんなことを感じ取っている。そして大抵質問すればちゃんと答えてくれた。
からりと揚がった鶏肉を菜箸でつまみ、ふうっと息で冷ます。
揚げたてはさすがに熱いだろうと判断しての行動だったけれど、春臣さんの口元に持っていってから間違えたと気が付いた。