夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「……自分で食べられるぞ」
「あっ……そ、そうですよね」
いつも母とこんなふうに味見をさせ合っていたから、完全にそのつもりでやってしまった。春臣さんが無表情ながら、ちょっと困惑してしまうのも仕方がない。
自分のうっかりに完全に硬直してしまう。
と、春臣さんが手を伸ばした。
(なに――)
菜箸を握った手を掴まれてドキリとする。
なにが起きたのかと思う間もなく、軽く引かれた。
さっき食べさせようとしたそれを、春臣さんが自分で食べる。私の手を使って。
「ご馳走様」
淡々と言われるけれど、今の一連の行動がよくわからなくて反応できなかった。
そんな私を不思議に思ったのか、春臣さんが顔を覗き込んでくる。
「ちゃんと美味かったからな」
「それなら……よかったです」
「……ほかになにか言った方がいいか?」
「……え?」
「海理なら思い付くんだろうが、美味かった以外の感想が出てこない」
どうやらなにか誤解させてしまったらしい。
私が固まっていたのは春臣さんの行為のせいであって、別に反応が“ご馳走様”だけだったからではない。
「いえ、それはいいんです。大丈夫です」
「そうか」
「ちょっとびっくりしてしまって……」
「なにに?」
「ええと……」