夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~

「――っ!?」

 ふわ、とアルコールが香る。
 これはウイスキーだろうか。とてもいい香りに感じられるのは、これが春臣さんからのキスで与えられたものかもしれない――。
 思わずぼんやりと受け入れそうになって、はっとする。
 慌てて広い胸を押しのけてから、恐る恐る背後を振り返った。

「俺のことは気にせず、どうぞ続けて」

 進さんが満面の笑みでばっちり今の瞬間を見ていた。
 さりげなく携帯電話を用意しているのは、撮影でもしようとしていたからだろうか。
 この人もこの人でなにを考えているんだと止めようとしたとき、不意に抱き寄せられる。
 進さんであるはずがない。春臣さんだった。

「春臣さん、進さんの前です……っ」
「……だから言ったんだ」

 どことなく、声がふわふわしている。
 そういえば酔っていたんだったと、触れてくる手の熱さでようやく気付いた。
 進さんの前でこんなところを見られるわけにはいかないと、なんとか春臣さんを押しのけようとする。でも、やけに力が強い。
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