夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「すみません、進さん。春臣さん、酔ってるみたいで……!」
「知ってる。さっきもすごかったんだよな。あんなに惚気を聞いたのは生まれて初めてだよ」
「惚気って、まさか……」
「そ。春臣の惚気」
(ってことは、その内容って……)
赤くなればいいのか、青ざめればいいのか。
完全に硬直した私にとどめを刺すようにして、進さんはにっこりと笑みを深めた。
「楽しい新婚生活を送ってるようでなにより」
(なにを聞いたの……!)
聞きたいけれど聞けない。春臣さんがなにを言ったのか、考えるだけでも恐ろしすぎる。
もともと言葉少なな春臣さんが、そもそも惚気なんてするとは思えない。だから進さんもここまで楽しんだ様子を見せているのだろう。
そういえば、と思い出す。
進さんは「俺のせい」で「飲ませすぎた」と言っていたのだった。
それが“春臣さんの惚気を聞くために酔わせた”のだとしたら――。
「奈子」
それだけで私を酔わせそうな、甘い優しい囁きが耳朶をくすぐる。
春臣さんが甘えるようにすがりついてきて、私の耳を甘噛みした。