夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~

「お前はかわいいな」

(待って、待って、待って……!)

 首筋にキスをされて本格的に止めに入る。
 爆笑する進さんのことはもう考えないようにした。

「進さんに帰ってもらいますから! それからにしましょう!」

 私が言うと、進さんがちょっぴりいじわるな顔をする。

「もう少し見ていたいんだけど、だめかな?」
「だめです!」
「残念。デレデレの春臣を目に焼き付けたかったんだけど」

 進さんが立ち上がる。そのことにほっとした。

「こいつがなにを惚気てくれたかは言わないでおくよ。でも、愛されてるな」
「あ……ありがとうございます……」
「おんなじぐらい愛し返してあげてくれ。結構、寂しがり屋なんだ。こんな図体で」

 それじゃ、と進さんが手を振って玄関へ向かう。

「お邪魔虫は帰りまーす。あとはごゆっくり」

 見送りに行こうにも、春臣さんががっちり腰に抱き着いている。
 ばたんとドアの閉まる音がしても、まだそうしていた。

「春臣さん、酔いすぎです。自分のしてることもわかってないですよね?」
「奈子を抱き締めている」
「……たしかにそうですけど」
「ずっとこうしたかったんだ」

 すり、と春臣さんが顔を寄せてくる。
 大型犬のようだと思ったけれど、相手は夫である。
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