夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
短編:風邪(奈子の場合)
くしゅん、と盛大なくしゃみをしてしまった。
ソファで本を読んでいた春臣さんが、驚いたように目を丸くする。
「風邪か?」
「いえ、たぶん大丈夫――」
言いかけてまたくしゃみをひとつ。
ぱたん、と春臣さんが本をテーブルの上に置いた。
そしてソファの端に座っていた私のもとまで近付いてくる。
それを見て慌てて飛び退った。
私はいくらでも風邪を引いて構わないけれど、この人は休みの日でさえビジネス書を読むほどには仕事中毒の社長だ。風邪を引けば素直に寝込むはずなどなく、医者にストップをかけられることでもない限り、高熱だろうとなんだろうと出社しようとするだろう。
「こっち、来ないでください」
なるべく距離を取りながら訴えると、ぴたりと近付くのをやめてくれる。
拒まれて気に入らないという感情と寂しいという感情が、端正な顔に複雑な表情を作り出していた。
「うつしたら大変ですから」
「別にいい」
結局、春臣さんは来てしまった。
それどころか私を抱き締めて腕の中に閉じ込めてしまう。
ソファで本を読んでいた春臣さんが、驚いたように目を丸くする。
「風邪か?」
「いえ、たぶん大丈夫――」
言いかけてまたくしゃみをひとつ。
ぱたん、と春臣さんが本をテーブルの上に置いた。
そしてソファの端に座っていた私のもとまで近付いてくる。
それを見て慌てて飛び退った。
私はいくらでも風邪を引いて構わないけれど、この人は休みの日でさえビジネス書を読むほどには仕事中毒の社長だ。風邪を引けば素直に寝込むはずなどなく、医者にストップをかけられることでもない限り、高熱だろうとなんだろうと出社しようとするだろう。
「こっち、来ないでください」
なるべく距離を取りながら訴えると、ぴたりと近付くのをやめてくれる。
拒まれて気に入らないという感情と寂しいという感情が、端正な顔に複雑な表情を作り出していた。
「うつしたら大変ですから」
「別にいい」
結局、春臣さんは来てしまった。
それどころか私を抱き締めて腕の中に閉じ込めてしまう。