夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~

「ほんとにうつしちゃいますから……っ」
「それでお前が早く治るならいい」

 ぬくもりを移すようにぎゅううっと抱き締められて、不覚にも嬉しいと思ってしまった。
 私の夫は契約結婚を提案するような人だったくせに、正式に夫婦となった後は頭の中が溶けるほど甘く接してくれている。
 このまま甘えていたい――と身を委ねそうになった自分を慌てて遠くへ追いやる。
 なんとかその腕から逃れようともがいたけれど、さすがに手強い。

「どうして抱き締めるんですか……!」
「近くに毛布がなかった。身体を温めるなら俺でもいいだろう」
「なんですか、その考え方……っ」

 逃げようとすればするほど、抱き締める腕の力が強くなる。
 最終的に諦めることになったのは私の方だった。
 仕方なく抱き締められたまま春臣さんを見上げる。

「……もしうつしたら、会社は休んでくださいね」
「そう簡単に休めるか。よほどの症状じゃない限り行く」
「絶対そう言うと思いましたけど、だめです」
「お前は休め。俺が代わりに申請を出しておく」
「公私混同はしないようにするって決めたじゃないですか。秘書の有給取得なんて社長自らやることじゃないです」
「うちはやる会社なんだ」
「ああ言えばこう言うのはよくないと思います」
「お前がああ言えばこう言うのが悪い」

 平行線になって軽く睨み合う。春臣さんが引く気配はまったくなかった。
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