夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「……風邪、うつらないでくださいね」
「俺がどうにかできる話じゃない」
「それでも、です。……少しでもおかしいと思ったら、絶対会社に行かせませんから」
「お前は俺の話ばかりだな。少しは自分のことを考えたらどうなんだ」
「だから勝手に寝て、勝手に治ろうと思ったんです。なのに……」
なおも続けようとすると、声を封じるように口付けられた。
まったく予想していない行動に言葉を飲み込む。
「喋ってないで寝ろ。俺も寝る」
「う……うつったらどうするんですか……」
「そのとき考える」
首の下に腕を入れられ、腕枕をされる。
また嬉しいと思ってしまった自分が悔しい。
(もう、甘やかされちゃおうかな)
そんな欲求に負けてしまったのは、決して私が悪いわけではないだろう。悪いのは甘やかしたがる春臣さんであって、断じて私ではない。
本当にここで眠るつもりらしい春臣さんの胸にすり寄り、顔を埋める。すっかり慣れてしまった夫の香りがした。
(……よく眠れそう)
結局のところ、私が一番身も心も休まるのはこの人の腕の中だった。
ぬくもりと香りと、鼓動を感じて気持ちが落ち着いていく。
穏やかな時間は大量の買い物を済ませてくれた進さんがやってくるまで続いたのだった。