夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「……おそば、食べたいです」
「わかった」
「春臣さんは? 食べたいものがあるならそれでもいいですよ」
「なんでもいい」
遊ぶように私の手に指を絡めながら、なんてことないように言う。
この人はあまりこういう意味での欲がない。主婦として「なんでもいい」という言葉はたまに許しがたいものだったけれど、逆に言えば「どんなものでも拒まない」ということでもある。
夕飯の際にこの言葉を聞いたときは、ときどき冒険させてもらった。
小料理屋の娘として、新しい創作料理の考案には燃えてしまうからである。
「奈子」
「はい」
「今日も早く帰るぞ」
「……はい」
家でなら、心行くまで好きなことができる――と思っているのが手に取るようにわかった。