夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
(家でもここでも、あんまりやってることは変わらない気がするけど)
厳しい一面を見せなくなって、もっともっと触れ方に遠慮がなくなる程度だ。
ふと手元を見る。
指を絡めるだけでは物足りなかったのか、私の手を握ったり離したりしていた。
「そろそろお仕事に戻りませんか?」
「まだいいだろう」
「早く済ませたら、その分早めにお昼を取れます」
「……最近思うんだが、俺の扱いがうまくなってきたな」
「妻ですから」
秘書だから、と言うところをうっかり間違えてしまった。
どちらにしろあまり意味は変わらない気もするけれど、なんとなく春臣さんが嬉しそうにするせいで気恥ずかしい。
「お前がそう言うなら、休憩はここまでにしよう」
「はい」
ふたり一緒に立ち上がって、それぞれのデスクへ戻ろうとする。
「奈子」
その前に引き止められた。
「なんですか?」
振り返ると、軽く抱き寄せられる。
屈んだ春臣さんに合わせて無意識に背伸びをしてしまったのは、もう癖としか言いようがない。
「……ん」
触れるだけのキスを交わして、何事もなかったように離れる。
私の胸にざわつきを残しておきながら、春臣さん本人は上機嫌に仕事へ戻ったのだった。