夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
春臣さんは距離を取っていた私にたった一歩で近付く。
そのまま壁に追い詰められ、背中がとんとぶつかった。
顔の真横に春臣さんの手がつく。これはいわゆる壁ドンというものだろう。夫にされるのはなかなか緊張するものがある。
「お前を焦らすつもりだったのに、俺の方が焦らされているみたいだ」
「……自業自得です、そんなの」
「奈子」
こっちを見ろ、と言うように顎を持ち上げられる。
たしかな熱を宿した瞳に見つめられ、ずくんとお腹の奥が熱くなった。
(ちゃんと私だって……焦らされてますし)
それを言えば、抱きかかえられて寝室まで運ばれる。
それもいいかと思ってしまったのは、もう仕事をする気がなくなったせいだった。
「ここでするのと、ベッドでするのとどっちがいい?」
唇が触れ合うギリギリの距離で囁かれる。
欲しいキスを与えてくれない意地悪さにむっとしつつ、春臣さんを見つめた。