夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~

「さっきの社長さんも言っていましたけど、私よりもっとこういう華やかな場所に向いた女性を連れてくるべきだったんじゃないでしょうか」

 ――会社のPRも兼ねて女優でも連れてくるのかと思っていた。
 春臣さんと関わったことのあるその社長が、どこまで本気で、そしてどこまで冗談で言ったのか私にはわからない。

 たしかにこの場にいる人々のパートナーにはそういった人が多い。だからこそ、春臣さんに対して同じように思っている人も少なくないだろう。
 春臣さんが少し嫌な顔をする。傍目にはあまり表情に出ていないけれど、さすがに妻として過ごした時間の長さが教えてくれた。

「妻がいるのに、どうして他の女を連れて歩かなきゃならないんだ」
「これは会社の広報活動でもあるんですよ。だったら、そういう面も考えた上でパートナーを選んだ方がよかったんじゃないかって」

 これは、私の失態だ。
 秘書ならば気付くべきだったし、自分から提案するべきだった。

「すみません。私が手を回すところでした」
「俺はお前以外連れて歩かないからな」

 きっぱり言い切ったその声はいつもより少し低めに響く。
< 145 / 169 >

この作品をシェア

pagetop