夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~

「ほかにも妻を連れている人間は何人もいる。別にただの懇親会なんだから、張り切ってPRなんかしなくてもいい。そもそも、そういうことを担当するのは海理だ。俺はやらない」

 春臣さんにしてはかなり詳細に説明してくれた方だった。
 下手をすれば「俺はやらない」しか言わないような人だからである。
 けれどそれが、少し嬉しい。
 言わなければならないと思うほど、私の不安をくみ取って気遣ってくれている。
 嬉しい、けれど――申し訳ない。

「……せめてもっと綺麗になっておきます」

 ありがとうと言いたかったけれど、秘書としてはあまり言うべき言葉ではないように思えてしまった。だからせめて、妻としての言葉を伝えておく。

「もう充分綺麗だ」

 なにを今更、とでも言いたげに鼻を鳴らされる。
 本人としては当然なのかもしれない。その反応が嬉しかった。

「それは春臣さんが選んでくれたドレスのおかげです。アクセサリーだって全部そうじゃないですか」
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