夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~

「俺が、お前をふさわしいと思うから隣に置きたいんだ」
「置物じゃないですよ、私」

 冗談めかして言ってみたけれど、声が震えた。
 この人は、優しい。
 妻であってもただの一般人でしかない私の不安を、全部包み込んでくれる。

「でも、そう言ってもらえたら元気になれます」
「なら、いい」

 綺麗にセットされた髪の上に、ぽん、と手を置かれる。
 そして春臣さんは軽く屈んだ。
 あ、と声を上げる前にかすめるだけのキスをされる。

「顔を上げて堂々としていろ。お前は俺のパートナーで、大切な妻なんだ」
「……はい」

 もっと勇気を出したいから、もう一度キスしてほしい。
 そんな思いはあったけれど、人前でいちゃつくわけにはいかない。
 ましてや今日は会社を背負ってきているのだから尚更である。

「挨拶回りも頑張らないとですね。任せてください」
「ああ」

 春臣さんの返答は短い。
 でも、そこにはたしかな信頼と愛情がこめられていた。
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