夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「クロスタイルさんとこの秘書さんですよね?」
「はい、そうですが……」
話しかけてきたその人は若干顔が赤らんでいた。
四十代半ばか、それ以上か、それなりに歳のいった相手に思える。
身なりは立派だった。きっとこの人もどこかの社長なのだろう。残念ながら私の記憶に一致する名前と顔はない。
「なにかご用でしょうか? 社長の倉内でしたら、あちらに……」
「違う違う、秘書さんと話してみたくて」
「……私ですか?」
少し、警戒する。
春臣さんのおかげで緩和されたとはいっても、やはり男性は得意ではない。いきなり春臣さんのもとへ逃げ帰らなっただけ成長したと言えるだろうけれど。
男性は上機嫌に笑っていた。
でも、その目は私を捉えている。
「綺麗な人だなーと思ってですね。ちょっとお話できたら嬉しいなーって」
「すみませんが、会社についてであれば倉内に……」
「だから、秘書さんと話したいんだって」
ずい、と距離を縮められてぎょっとする。
両手にグラスを持っていなければ、縮められた分以上の距離を開けていたことだろう。