夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「秘書さんってクロスタイルでいくらもらってるの? うちでちょうど募集しててさ、よかったらどうかな?」

 もはや敬語さえ取り払われていた。
 明らかに酔っているのだと判断し、ここは穏便に当たり障りなく答えることにする。

「いえ、まだ勤めたばかりなので……」
「へええ? そうなんだ、いつから? なんで?」

(……どうしようかな)

「いろいろと条件が重なりまして……」

 曖昧に濁しながら、軽く頭を下げる。

「すみません。社長が待っているのでまた……」
「そんなこと言わないでよ」

 手を、掴まれた。
 掴まれたのは心臓なのかと錯覚するほど、びくりと震えてしまう。

「あ、の……離してください」

 グラスから手を離せば抵抗できる。
 でもここで騒ぎを起こせば、春臣さんに迷惑がかかる。
 掴まれているところからじわじわ不快感が広がった。
 他人には触れられたくない。ましてや、こんな不躾な目で見てくるような男性には――。
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