夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
 頭の中でその単語をなぞり、私を見るその人と目を合わせる。

「妻って……なんですか……?」
「そのままの意味だが」
「いえ、そういうことではなく」
「引き受ける気がないなら時間の無駄だ。帰れ」
「そんな横暴な」

 思わず本音が口を突いて出てしまった。
 だってあまりにも意味が分からない。

「今回、秘書を募集しているのだと聞きました。でも……結婚相手を探していたんですか?」
「いや。そもそも俺はどちらも必要なかった。それをあのバカが……」

 苛立たしげな声を聞いてピンと来る。

「……もしかして、この間のパーティーでイヤリングを拾ってくれた方でしょうか」
「そうだ」

(やっぱり)

 自分の考えが当たっていたことにほっとして、それどころではなかったのを思い出す。

「それで、先ほどのお話ですが」
「別にこれ以上話すことはない。帰るか引き受けるか、どちらかだけだ」
「……普通、説明があるものだと思います。妻になれ、なんて普通じゃありません」
「今すぐ結婚しなければならない事情がある。以上だ」
「説明になっていないです」

 面接で話そうと思っていたことは何もかも吹き飛んでいた。
 この態度、そして社長室にいたことから考えるに、間違いなくこの人はクロスタイル社長の倉内春臣なのだろう。
 だからと言って、こんなことを許していいはずがない。

(そういうつもりなら帰ります……って言いたいけど……)

 自分が何を背負っているかを思い出し、げんなりと肩を落とす。

「……私がどんな人間で、何をするか判断せずにプロポーズして大丈夫なんですか?」
「どうでもいい」
「どうでもいいって……」
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