夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「よく考えたら、今夜は初夜だったな」
「え」
「どれだけの夫婦がそういう風習を重視しているかは知らないが」

 彼が私に覆いかぶさる。
 身動きを取れないよう、腰の上に陣取りながら。

「『夫婦らしく』するのなら、考えておくべきかもしれない」

(――嘘でしょ)

 言ったつもりが、声にならない。

「大丈夫だ。優しくする」

 少しだけ笑ったことにドキリとする。
 そんな顔で笑うのかと見とれたのがよくなかった。
 身体にかかる重みが増して、衣擦れが近くなる。
 男性にしては細くて綺麗だと思った指が、私の胸元に滑っていた。
 ふつり、とボタンをひとつ外されてしまう。
 それでも、一度止まってしまった頭は現状に追いつくことができない。
 完全に固まっていると、外気に晒された肌へ柔らかい感触が落ちる。

「っ……」

 閉じた唇から勝手に吐息がこぼれ出た。
 もし開いていれば、きっと声も出ていたに違いない。
 自分のものとも思えないような、濡れた声が。

「感度は悪くなさそうだな。安心した」

 耳朶をくすぐる囁きは、内容こそまったく甘くないのに、とろけるような響きをしていた。
 ぞく、と背筋に得体の知れない痺れが駆け抜けていく。
 未知の快感に思わず目を閉じると、今度は耳にもキスをされた。

「……っ、ん」

 声を出すまいと思ったのに漏れ出てしまう。
 咄嗟に押しのけようとした手を掴まれた。
 思いがけず優しく、けれど強引にシーツへ縫い留められる。
 そうして私の動きを塞ぐと、あろうことか耳を噛んできた。

「待っ……」
「先に踏み込んできたのはそっちだろう。どうして今更、拒もうとするんだ?」
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