夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「おいしいですか?」
「ああ」

 食事中の会話はそのくらいで、後はお互い黙々と食べる。
 なんとなく言動が偉そうなことを除けば、春臣さんは食べさせ甲斐のある人だった。好き嫌いがないばかりか、残さずにおかわりを要求する時まである。

(こういう時、自分はあの両親から生まれたんだなぁって実感する)

 夫婦で小料理屋を切り盛りしている両親は、人に手料理を食べさせるのが趣味だった。
 つい最近まで変わった趣味だと思っていたけれど、これではまったく人のことを言えない。

(それにしても……)

 気が付くと、箸を動かす手を止めてしまう。
 春臣さんはせっせと食事をこなしていた。
 ある意味機械的ではあったけれど、食べ方が惚れ惚れするほど美しい。

(育ちがいいってこういうことなんだろうな……)

 これが見たくて食事を作っているというのもないではない。
 もともとの見た目がいいだけに、ひどく絵になっていた。

「ご馳走様」

 そうこうしているうちに、春臣さんは食事を終えてしまった。
 ちゃんと食後に挨拶してくれるのも私の中では好感が高い。

「お粗末様でした。足りましたか?」
「ああ」
「それならよかったです」

 遅れて私も食事を終わらせ、キッチンへ弁当を取りに行く。

「はい、今日の分です」
「……いつも思うが、よくそんな時間があるな」
「朝ご飯のおかずを詰めているだけですから」
「そういうものか」

 弁当を受け取った春臣さんが少し考え込む。

「どうかしましたか?」
「俺より、よっぽどお前の方が夫婦らしいことをしていると思った」
「それは……まあ、そうですね」
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