夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「こんなことされるなんて聞いてません……っ」
「夫婦なんだから想像くらいできると思うがな」

 囁いた声と、吐息と、キスと、ひとつひとつが私の混乱を煽ってくる。
 目を閉じているはずなのに眩暈がした。

(想像なんてしてるわけない。だってこれは恋愛結婚じゃないんだから……)

 耳へ繰り返されるキスが、だんだん濡れた感触へ変わっていく。

「……っ、ひ」
「変な声を出すな」
「だ、だって、舐めましたよね……?」
「それがどうかしたのか?」
「びっくりするに決まってるじゃないですか……」

 訴えようと目を開けて、自分の失敗に気付く。
 遠い人だと思っていたその人は、私のすぐ目の前にいた。
 吐息が触れるほどの距離で、見たことのない表情をしている。

「これからそれ以上のことをするのに、何を言っているんだ」

 どこか冷たいと感じていた声に熱が見え隠れしているのが分かる。
 結婚式の最中はほとんど私を見なかったくせに、今は一瞬も目を逸らしてくれない。
 暗闇の中でも微かに濡れた唇が見えてしまった。
 この形のいい唇が私の肌に触れて、耳を愛撫して――。

「っ……ふ……」

 再びまた甘い刺激が駆け巡る。
 大きな手が私の服の中に潜り込んでいた。
 お腹の上をゆっくり撫で、くすぐるように指先を動かしている。

「っあ……」

 思いがけず変な声が出てしまい、縫い留められていない方の手で顔を覆ってしまった。

「今度は何だ」
「顔、見ないでください……」

 きっと今、私はとてもおかしな顔をしている。
 赤くなっているだろうし、泣きそうになっているに違いない。
 ほんの少し指が動いただけで肌が粟立つ。
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