夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
(まだ、春臣さんのことなんて全然知らないのに)

 分かっているのは言動が偉そうだということと、私の作った料理を綺麗に食べてくれるということ。
 それから、距離の縮め方がどうやら私の知るものと違うということ。

「私……これ、好きかもしれません。安心します」

 落ち着くけど、落ち着かない。
 それをどう言葉にしていいのかは思いつかない。

「だったら毎日やるか」
「えっ」
「安心するんだろ」
「……嫌じゃないんですか?」
「別に」

 さらっと返す言葉に深い意味はなさそうだった。
 でも、私の胸に小さな疼きを与えるには充分な響きを帯びている。

「安心されるとは思わなかったな。嫌がられるならまだしも」
「実家がお店だったから、あんまり両親に抱き締めてもらう時間がなかったんです。だから人にされると嬉しく思うのかもしれません」
「ああ、そういうことだったのか」

 ぽんぽんと頭を撫でられて顔を上げる。

「俺も両親とはあまりこういうことをしてこなかったから。これを悪くないと思うのは、お前と同じ理由だったんだな」
「意外と共通点もあるんですね」
「意外と?」
「もっと遠い世界の人だと思っていたんです」

 片や大財閥の会長を祖父に持つ生粋の御曹司で、片や借金を抱えた小料理屋の庶民で、と考えると、縁というものは面白い。

「雲の上の人だと思ってたのに。普通に触れる距離にいると、不思議な感じがしますね」
「そうか?」
「触ってもいいですか?」

 どうして自分がそんなことを聞いてしまったのかは分からない。
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