夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「変な意味で引き留めたわけじゃないですよ。人妻相手に」

 わざとらしく付け加えられた言葉にひやっとする。
 思い出したのは先日会った時治さんのことだった。

(もしかしたら進さんも怪しんでいるのかもしれない。結婚しなきゃならない理由を、この人も知っているんだから……)

 身構えていると、進さんは自分のコーヒーを一息に飲み干して身を乗り出してくる。

「どんな風にプロポーズされたか聞いていいですか?」
「…………え?」

 探りを入れている――ようにはとても見えなかった。
 そんな人がここまで目を輝かせて、見るからにわくわくした様子をするはずがない。

「いや、気になってたんですよね。春臣ってあんな感じじゃないですか。どうやって付き合ったのかーとか、あんなのでもちゃんと好きって言えるのかーとか、いろいろ幼馴染とは気になるわけでして」
「あ、えっと……そ、そうなんですね」
「デートとか、やっぱりしてるんですよね? どんな感じなんです?」

 そんな風に聞かれても答えられる内容がない。

(デートなんてしたことないし……)

 これからもするとは思えないけれど、それをここで話すわけにはいかなかった。
 どうごまかそうかと思っていると、勝手に進さんの方で話を続けてくれる。

「そもそも、ちゃんとあいつが恋愛してるっていうのが俺にとっては驚きなんですよ。大丈夫です? 人質を取られて無理に結婚を迫られたとかじゃないですよね?」
「あ、あはは……さすがにそれは……」

 ない、とは言い切れない。
 見方を変えれば『実家の借金を理由に結婚を迫っている』のだから。
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