夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
(それを言えば私も『結婚を条件に実家の借金返済を助けてもらってる』わけだけど)

「奈子さんには悪いけど、あんまりにも急な話だったからちょっと疑ったりしたんですよ。ほら、春臣って金持ちですし、あの倉内さんの孫ですし。お金目的で近付いてくる人が少なくなかったので」
「そう……なんですね」

 予想していたことではあった。
 見た目もいい、資産もある、業界での地位もあって、しかも後ろには大財閥の会長が付いている生粋の御曹司。
 となれば、目の色を変えない女性などいないはずがない。

「春臣さんから聞いたことはないんですが、そういう方々とお付き合いはしてこなかったんでしょうか」
「…………あ、これって奥さんにする話じゃなかったか」
「いえ、気にしませんが」
「ごめん、あいつにも口が軽いってよく言われるんです」

(それはとてもよく分かる)

 春臣さんが無口なら、進さんはお喋りだろう。
 幼馴染二人が上手くバランスを取ってきたのは容易に想像できた。

「春臣本人から聞いた方が誤解もないと思――いや、その方が誤解されそうだな……。あいつ、いろいろと誤解されやすい発言が多いからさ」
「じゃあ、誤解しそうになったら詳細を聞きに来ますね」
「あ、それいいな。助かります」

 苦笑した進さんに他意はないように見える。

「きっかけって、やっぱりあのパーティーですか?」

 綺麗に話の方向を変えると、進さんは私にテーブルの上にあるお菓子を勧めてくれた。

「あ、でもあの時にはもう付き合ってたとか。それなら牽制されたのも分かるんですよ」
「……ご想像にお任せします」
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