夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
 下手なことは言わない方がいいだろうと判断し、曖昧にごまかしておく。
 なんとなく、進さんはこういう言い方を好むんじゃないかと思った。
 案の定、キラリと目が輝く。

「うわ、気になるな」

 心からそう思っている様子を見せた直後、不意に進さんが自分の口を押さえる。

「すみません、つい」
「何がですか?」
「や、なんか気を抜いちゃうんですよね。春臣の奥さんって言っても、俺の友達じゃないんだから、ちゃんとしなきゃいけないと思ってるんですけど」
「別に気にしませんよ。進さんの話しやすいようにしてください」
「あ、じゃあ敬語やめていい?」
「はい」
「よかった。肩に力入っちゃうんだよな」

 切り替えが早すぎると思ったけれど、このぐらいの方が生きやすいのかもしれない。
 そう思って、疑問が浮かぶ。

「進さんと春臣さんって正反対の性格ですよね。なのに……」
「なのに、昔っからの幼馴染で今もおんなじ会社を経営するぐらい仲良くしているのが不思議。……合ってる?」
「……はい」
「お互いの苦手分野をフォローし合えるのが楽だから、って俺は思ってるよ」

 なるほど、と頷く。
 春臣さんは、取材の担当は進さんだと言っていた。
 確かに人前に出て話すなら、春臣さんより進さんの方が絶対にいい。

「進さんの苦手分野ってなんですか? 春臣さんなら分かるんですが……」
「人に命令すること、かな。お願いならできるんだけど、ビシッと言うのは得意じゃない。ほら俺、こういう性格だし、あんまり上に立つタイプじゃないというか」
「……納得しました」
「春臣にとっていいことなのか悪いことなのかは考えないでおくよ」
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