夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
 そして――デスクの上に押し倒された。

「何を話したんだ」

 顔の真横には春臣さんの手が逃げ場を封じるように置かれている。

(怒ってる……?)

 なんとなくそう感じながら、首を横に振った。

「大した話はしていないと思います。デートをしたことがあるのか、とかその程度で」
「デート?」
「はい。気になるらしいです」

 本当のことを素直に答えるけれど、あまり信用されている気配がしない。

「……どうして怒ってるんですか?」
「別に怒ってない」
「でも、そう見えます」

 不思議なことに、怖いとは思わなかった。
 間違いなく苛立っているだろうけれど、私に向けられたものではないように思えるからかもしれない。

「ちゃんとした夫婦じゃないってことに気付かれるような話はしていないです。……多分」

 もう一度言うと、春臣さんが少し目を逸らした。
 そして、また私に視線を戻す。

「あんまり俺以外の男と二人で過ごすな」
「……本当に嫉妬してるみたいです」
「なんで嫉妬なんかしなきゃならないんだ」
「そう……ですよね」

 二人で過ごすな、という言葉がなぜか頭に残る。

(本当に誤解されやすいことばっかり言う……)

 ざわついていた胸がぎゅっと締め付けられた。

「あいつに教えたお前のこととは何のことだ?」
「私も考えているんですが、思いつかないです」
「思いつかない?」
「はい。私の話は別にしていなかったと思って……」
「……なるほどな」

 はあ、と溜息を吐くと、春臣さんは自分の額を手で押さえた。

「あいつには気を付けろ。すぐ人でからかって遊ぶからな」
「春臣さんもよくからかわれるんですか?」
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