夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「昔からずっとそうだ」

 不機嫌そうに言った表情が少し子供っぽくて意外に思う。
 二人の付き合いの長さを見せられた気がして、笑ってしまった。

「本当に仲良しなんですね」
「……笑うようなことか?」
「いいなと思って。私にはそういう幼馴染がいませんから」
「別にいて嬉しいものじゃない」
「だけど、一緒に会社を作ってやりくりするぐらいは仲良しなんですよね?」
「……他にすることがなかったから付き合ってやっただけだ」

(それを仲良しって言うと思うんだけど)

 嫌そうな顔の春臣さんは貴重だった。
 もっと見てみたいと思って――どうして進さんがこの人をからかいたいと思うのか分かった気がしてしまった。

(いつも無表情だから、他の表情を見てみたいと思うんだ)

 春臣さんは本当に時々しか笑ってくれない。
 あの顔は嫌いではなかった。

「なんでにやけてる?」
「私、にやけてましたか?」
「かなり」

 押し倒された体勢のまま、自分の頬を触ってみる。
 どんな表情を浮かべていたか、自分では分からない。

「進さんがからかいたがるのも分かるなーって思ってただけなんですが……」
「そんなもの理解するな」

 むっとした口調で返され、鼻をつままれる。

「俺よりお前の方がよっぽど面白いだろう」

 反論するという考えは頭に思い浮かばなかった。
 何かと触れ合いはあったけれど、こんな気安い触れ方は初めてだったから。
 私のそんな反応を見て春臣さんもそれに気付いたのだろう。
 軽く目を見張ってから私を解放してくれた。

「……ともかく、海理に隙は見せるなよ。女慣れしているしな」
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