夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
 自分でも意外に思うほど嬉しくなる。
 その理由を考えて、ふと気付いた。

「ちゃんと春臣さんのことを聞いたのって、もしかしてこれが初めてですか?」
「そうか……?」
「もっと知りたいです。ゆっくりでもいいので教えてください」
「まあ……時間がある時でいいなら」
「はい……!」

 思いがけず声が弾んでしまい、春臣さんの目が軽く見開かれる。
 急にこみ上げた恥ずかしさを隠そうと、慌てて視線を下に向けた。

「す、すみません。ちょっと嬉しくて」
「……別にいいんじゃないか」

 春臣さんが子供にするように頭を撫でてくる。

「俺もお前が喜ぶ所は初めて見たな」

 いつも家でされるより密着の度合いが高い。
 それを意識して自分の体温が上がるのを感じていると、こめかみにキスを落とされた。

「笑うとかわいいんだな、お前は」
「――!」

 そう言って笑った春臣さんの方が、私にとってよほど衝撃的だった。
 頬を緩めた所ならこれまでにも見たことがある。
 けれど、今までに見たどの笑顔とも違っている気がして――。

(なんだか、すごくドキドキする……)

 目を逸らせずにいると、春臣さんが顔を近付けてくる。
 さっきはこめかみに落ちたキスが額に触れて、次に目尻に触れた。
 まつ毛をかすめるだけのキスもされると、胸の内がくすぐったくなる。

「そ、そのぐらいにしてください。猫みたいです」
「こういう時に逃げたがるお前の方が猫っぽい」

 髪を手で梳かれ、繰り返しついばむだけのキスをされる。
 くすぐったさに笑いながら肩を叩くと、ムキになったように何度もやられた。
 しばらくそうしてじゃれ合っていた時――。
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