夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「五分だけ時間をくれると嬉しいんだけど、無理そう?」

 声が聞こえて、春臣さんが背後を振り返る。
 私も慌てて身体を起こすと、半開きの扉に寄りかかった進さんの姿があった。

「新婚でイチャつきたい気持ちは分かるけど、ここはやめろよ、ここは。俺の部屋まで声が響くんだぞ。気まずいじゃないか」
「イチャついてないだろ」
「どこが?」

 進さんは呆れているようだった。
 でも、口元には笑みが浮かんでいる。

(ど、どこから見られてたんだろう……!)

 恥ずかしさのせいで、そちらを見ることができない。
 必死にうつむいていると、そんな私を隠すように春臣さんが前に立った。

「で、用は?」
「気まずい所を見られたんだから、もうちょっと照れるとか反応しろよ」

 わざとらしく肩をすくめて言うと、進さんは仕事の話をし始める。

(……次から気を付けよう。仕事場では……必要以上に夫婦を演じる必要なんてないんだから)

 そう心に固く誓って、詳細を聞きたげな進さんの目を避けるように私も仕事へ戻った。

***

 その夜は二人で家に帰った。
 予定していたお鍋をつついていると、爆弾発言が落とされる。

「デートに行くなら何をしたい?」
「っ!?」
「……何をそこまで驚いているんだ?」

 至極当然のツッコミだったけれど、普段の自分の言動を振り返ってから言ってほしかった。

「……すみません。春臣さんからデートの話が出るとは思わなくて」
「海理に言われたんだろ」
「はい。……もしかしてするつもりなんですか?」
「したくないならしない」

 どうする、とでも言いたげに見つめられる。

(春臣さんとデート……?)
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