夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
 私たちの間にはいつも『そういうもの』という暗黙の考えがある。
 夫と妻とはこういうもの。
 だから抱き締め合ったり、手を繋いで眠ったりする。
 これもその内のひとつなのだとしたら『そういうもの』を『そうするべき』としてお互いにやろうと思っていた――ということになるのだろうか。
 分からないながら、きゅっと手を握り合う。
 もやもやした気持ちがまた増したような気がした。

 その後、私と春臣さんは他愛ない話をしながら通りを散策した。
 話す内容は出会うまでの仕事のことだったり、進さんのことだったりで、お互いの深い場所はほとんど話さない。
 上手く言葉にはできないけれど、その話題になるのを避けられているような気がした。

「今日は絶好のデート日和でよかったですね」

 仕事の話ばかりでは味気ない、と話題を変えてみる。

「そうだな。晴れてよかった」
「雨だったらまた違う場所に連れて来てくれたんですか?」
「どこに行きたいのか希望があれば、そこに連れて行ったんじゃないか」
「春臣さんの行きたい場所は?」
「……特に思い付かないな」

 食べたいおかずは言ってくれるのに、こういう時は意見を言ってくれない。
 遠慮するような人ではないから、きっと興味を惹かれるものが少ないのだろう。

「この後はどうするつもりだったんですか?」
「その辺の店でも見るんじゃないか?」
「……他人事ですね?」
「俺の希望はないからな。お前のやりたいように合わせる」
「私、この辺りで見たいお店はありませんが」
「そうなのか?」

 なぜか、驚いた顔をされる。
 それもまた珍しい。

「服でも見るのかと思っていたんだが」
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