夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「でも、今はデートじゃないですか」
「デートだから服を見るんだと思っていた。違うのか?」
「だって、春臣さんは面白くないですよね……?」

 どうも噛み合っていないのを感じながら言ってみる。
 新しい服を買うのは好きだし、見るのも楽しいと思っている。
 けれど、わざわざ二人でいる時にしなくてもいいことだ。

「服を見る面白さは分からないが、お前を見ているからいい」

 当然のように返されて反応に困る。

「それ、楽しいですか……?」
「いつもつまらないとは思っていないな」
「……いつも?」
「見ていると面白い。いつもそう思ってる」

(いつも……!?)

 春臣さんにした問いをもう一度頭の中で反芻する。

「そ、そんなに私を見ていたんですね」
「家でも職場でも、ちょろちょろ動くのが面白かった。あれだな、ハムスターを見る感覚に似ているのか」

(ハムスター……)

 一応妻なんですが、と心の中で突っ込んでおく。
 喜んでいいのか悪いのか分からず、消化不良に終わった。

(まあ、本人がそう言うならいいのかな……)

 脱力したのは否めない。この人の口からハムスターという言葉が出てきたのも、その原因のひとつかもしれなかった。

「本当にいいなら、どこか見てもいいですか?」
「ああ」

 手を繋いだまま、普段なら入らないような店に入ってみる。
 この辺りはやや価格帯が高めでブランド品が多い。
 今までは雑誌で見るだけだったけれど、こうして直接見るとやっぱり心が弾んだ。

(あ、これかわいい。私にはちょっと清楚すぎるけど……)

 そう広くもない店の中を行ったり来たりしながら、いろいろと見ていく。
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