夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「……他には? まだ欲しいものがあるなら買う」
「そんな。だめです。欲しいものなら自分で買いますから」
「なんで遠慮するのか、まったく理解できない」

 春臣さんは面白くなさそうに眉を寄せる。
 普段、進さんに向けるあの呆れたものとよく似ていた。

「デートと言うから、いろいろ買ってやろうと思っていたのに」
「そうなんですか?」
「次は遠慮するなよ」

 困ります、とは言えなくて渋々頷く。

「適当に買えればいいが、お前の趣味も何も知らないからな。好きなものは? 靴は? カバンは?」
「ほ、本当に平気ですから……!」

(なんでそこまでするの?)

 わけが分からない私を置き去りにして、春臣さんは勝手に話を進めてしまう。
 その後もあちこちの店を回ってはいろいろ買ってもらうという、なんとも申し訳ない時間が続いてしまった。
 途中、通りに並ぶ店を端から端まで網羅しようとしているのに気付き、さすがに止める。

「次のお店で最後にしましょう。してください」
「もう必要ないのか」
「はい」
「……そうか」

 ちょっと不満そうにされたのが引っかかる。

(もしかして買い物好き……?)

 意外な一面に驚きつつ、ついに最後の店へ足を踏み入れる。
 そこは雑貨屋だった。
 今までに見て回った店と比べれば、値段も随分リーズナブルで安心する。

「こういう店に入ったのは初めてだな……」
「家を買う時に雑貨を揃えたりしなかったんですか?」
「いや? 適当に祖父さんが送ってきたものを置いた」

(やっぱり孫大好きなお祖父様なんだ……?)
 それほど物が多くなかった自宅を思い出す。
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