夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
 どれもこれも一級品だったけれど、ちょっとした遊び心のある雑貨はなかった。

「せっかくなら春臣さんが何か選んでください」
「……俺が?」
「家で使えそうな物です。実用的じゃなくても、かわいいなーとかそういう物でいいですから」
「お前で足りてる」

 そう言うと、春臣さんは律儀に購入する物を選びに行った。

(私で足りてるって、何が?)

 ぼんやり考えて、立ち止まる。

(まさか『かわいいもの』じゃないよね)

 自分で考えて情けなくなった。
 自意識過剰にもほどがあるとその考えを振り払う。
 店の奥に向かった春臣さんを追いかけると、棚の前で立ち尽くしていた。
 見てみると、いくつものマグカップが並んでいる。

(家でも会社でもコーヒーを飲んでるもんね。進さんの選んだやつ)

 社長室と副社長室にあるコーヒーメーカーは同じもので、それで淹れるコーヒーも同じ種類だった。
 進さんの一番お気に入りの味らしいけれど、肝心の春臣さんは飲めれば何でもいいと思っているのを知っている。

「どれがいい?」

 春臣さんが私を見ずに尋ねてくる。

「私が選ぶんですか?」
「ああ」
「んー……そうですね、じゃあ……」

 カラフルなマグカップを選別して、春臣さんが好みそうなデザインを探す。

(ごちゃごちゃしてない方が好きだと思う。シンプルな感じで……あ、これならいいかも)

 モノトーンのカップを手に取り、見守っていた春臣さんに差し出した。

「これはどうでしょう? こういう落ち着いたデザインが好きかと思ったんですが」
「悪くないな。……だったらお前のはこれか」

(……ん?)
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