夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
 レストランを出ると、外はすっかり暗くなっていた。

(あっという間の一日だったな……)

 黙り込んでいる春臣さんが何を考えているか分からない。
 でも、昼間と変わらず私の手を繋いでくれてはいた。

「これから帰りですか? それとも、まだどこか……?」
「……もう少し付き合え」
「はい」

 大人しく春臣さんに従ってついていく。
 その道中もこれといって会話は弾まなかった。
 気まずさを感じながら向かった先は、賑わう街を少し離れた高台の公園だった。
 やや狭くて暗い階段を上がると、開けた場所に出る。

「秘密基地みたいですね」
「お前もそう思うのか」
「他にも同じことを言った人がいたんですか?」
「俺が思った」

 春臣さんは奥まった場所へ行くと、朽ちかけた木のベンチに腰を下ろした。
 私もその隣に座ってみる。
 ぎしり、と音が鳴った。

(どうしてここに連れて来たんですかって聞いていいのかな)

 ずっと黙ったままの春臣さんをどうするか悩む。
 やっぱりこの時間は気まずい。

(私、何かしたかなぁ……)

 個人的には楽しいデートだったと思っている。
 春臣さんにとっては違ったのかもしれないと思うと、少し寂しい。

「……あの――」

 意を決して話しかけようとした時、春臣さんが肩に寄りかかってきた。

「だ、大丈夫ですか?」
「…………」
「……春臣さん?」

 手をぎゅっと握られる。

(そういえば、前にもこんなことがあったっけ)

「……また、苦手な取引先のことでも思い出したんですか?」

 いきなり抱き締められた時のことを思い出して言ってみる。
 春臣さんはゆるゆると首を横に振った。
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