夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「何か話そうと思うんだが、何から話せばいいか分からなくて困ってる」
「……え?」
「お前はずっと俺のことを知りたいと言っていただろう。俺の何が知りたいんだ?」

 寄りかかられているせいで、春臣さんの顔は見えない。

「好きなこととか、好きなものとか……なんでも知りたいです。お買い物は好きだって今日分かりましたけど」
「そんなことはないが」
「だってたくさん買い物をしていたじゃないですか」

 私が日頃見たこともないようなブラックカードを惜しげもなく晒して。
 最初に見た時は驚いたものだった。
 資産のある人間が持っているらしいとは聞いていたけれど、まさか本当に存在すると思っていなかったから。

「あれは……。……買い物は別に楽しくないし好きでもない」
「それなのに付き合ってくれたんですね。ありがとうございます」
「いや、そうじゃなくてだな」
「……?」
「……難しいな」

 それきり、また沈黙してしまう。

「……私のことを話してもいいですか?」
「うん?」

 言うつもりのなかったことが――一年、黙っておくつもりだったことが勝手に口からこぼれ出る。

「男の人が苦手なんです、私」
「……俺も?」
「いえ、それが春臣さんは平気なんですよね」

 自分でもその理由は分かっていないけれど、こうだからではないかというこおなら思いつく。

「初めて会った時のこと、覚えてます? 進さんに声をかけられて困ってた時、春臣さんが助けてくれたんです」
「助けたと言うのか、あれは」
「私にとってはそうですよ」

 どうすればいいか分からなくなった時に春臣さんが来てくれた。
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