夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
 聞きたいことはたくさんあるような気がした。
 でも、私の話す順番は終わっている。それに、今は春臣さんの話を聞きたい。

「海理とは……小学校からの付き合いなんだ。一人でいたら話しかけてきた」
「進さんらしいです」
「俺が何なのかを知っても態度が変わらなかった。……面倒な奴だが、いい奴だよ」
「……何なのかってどういうことですか」
「普通、倉内の名前を出すと態度が変わる」

 冷えた声に口をつぐむ。

「誘拐されそうになったこともあるな。祖父さんのせいで、利用されそうになってばかりだった」
「……時治さんのこと……その……」
「嫌いなわけじゃない。むしろ尊敬してる。自分も会社を作ってもいいかと思う程度には」

 それを聞いてほっとした。
 同時に、時治さんが春臣さんを気に掛ける理由の片鱗を見てしまう。

(孫がかわいいってだけじゃなくて、そういう負い目もあったから……?)

 すり、と指で頬を撫でられる。
 顔を上げると、私を見下ろす春臣さんと目が合った。

「他人に線を引かれるから自分でも引くようにしていたんだが、お前は平気な顔で踏み込んでくるな。夫婦だからお互いを知り合いたいとか、さっきだって遠慮なく俺を怖いと言っていたし」
「……すみません」
「……それ以外に何も思わないのか? 俺の持つ物や、他の……倉内の名前も含めて」
「はい」

 反射的に答える。

「知ったのは結婚してからですし。私が知っていたのは、困っていたら助けてくれた人ってことだけです」

 春臣さんは曖昧に笑った。

「今まで結婚について考えたことはなかったんだが、よりによってお前みたいな女が相手だとはな」
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