夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
――あの日から、ずっと家の中が寒い。
(……奈子)
先日までここにいた『妻』の名前を心の中で呼んでみる。
もっと何度も呼んでみたかったのに、肝心の本人はどこにもいない。
無意識に足が向いたのは食器棚だった。
そこにはついに使われることのなかった一対のマグカップがある。
――デザインの流出について、事態は既に終息し始めていた。
海理の気付きが早かったのが大きい。
奈子の言っていた通り総務課に確認を取ると、しばらく休職し続けている社員がいることが分かった。そこに当たりを付けて調べていけば、後は芋づる式に事が進んだ。
奈子が関係していたわけではなかったことも当然分かっていた。
きちんと証拠が出た後に海理から謝罪はあったけれど、どこまで自分の中で許せているのか分からない。
彼女はもう戻ってこないのだから。
(この後のフォローを考えるために早く上がったのに)
社長として、新規事業を進めるにあたってどうするかを考えなければならない。別のデザインを急いで考案する必要があるし、それ以外にもまだやるべきことが残っている。
それなのに、気付けばここにいたはずの『妻』のことを考えている。
(……知らなかった)
新品のマグカップを手に、項垂れる。
(こんなに寂しいと思わなかった)
『妻』を意識し始めたのはいつからだったのか――。
(……奈子)
先日までここにいた『妻』の名前を心の中で呼んでみる。
もっと何度も呼んでみたかったのに、肝心の本人はどこにもいない。
無意識に足が向いたのは食器棚だった。
そこにはついに使われることのなかった一対のマグカップがある。
――デザインの流出について、事態は既に終息し始めていた。
海理の気付きが早かったのが大きい。
奈子の言っていた通り総務課に確認を取ると、しばらく休職し続けている社員がいることが分かった。そこに当たりを付けて調べていけば、後は芋づる式に事が進んだ。
奈子が関係していたわけではなかったことも当然分かっていた。
きちんと証拠が出た後に海理から謝罪はあったけれど、どこまで自分の中で許せているのか分からない。
彼女はもう戻ってこないのだから。
(この後のフォローを考えるために早く上がったのに)
社長として、新規事業を進めるにあたってどうするかを考えなければならない。別のデザインを急いで考案する必要があるし、それ以外にもまだやるべきことが残っている。
それなのに、気付けばここにいたはずの『妻』のことを考えている。
(……知らなかった)
新品のマグカップを手に、項垂れる。
(こんなに寂しいと思わなかった)
『妻』を意識し始めたのはいつからだったのか――。