夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
 実家に戻った私は、時間の感覚が狂うくらいのんびりした日々を過ごしていた。

(えーっと……今日は何曜日だっけ)

 私だって最初は仕事を探さねばと思っていた。
 けれど、そこまで焦る必要がないことを両親が教えてくれたのである。
 結婚の条件だった借金の返済協力。
 春臣さんは結婚を決めたその日にもうすべての借金を肩代わりしてくれていた。
 私にはまだ伝えなくていいと彼が言っていた理由は分からない。

(解決したって知ったら、すぐに離婚されると思ったのかな。そんなことしないのに)

 それどころか、春臣さんは経営の助言まで残していったらしい。
 この辺りの地域ではどういうアプローチをしていくべきか、食材の仕入れ先はどう選べばいいのか。その他にもいろいろなことを教えてくれたと父が言っていた。
 おかげで我が家は以前より繁盛している。借金があったなんて嘘のように。
 母が、雑誌の取材まで来たと教えてくれていた。
 こんな小さな店なのにと不思議そうだったけれど、薄々は気付いているのだと思う。
 それもやっぱり春臣さんが手を回してくれたことで、借金を返す以上のものをうちに――私に与えてくれたということ。

(どうしてそこまで)

 リビングのテレビをぼんやり見ながら、手元のクッションを引き寄せる。

(……ありがとうも言えなかった)

 もっと一緒にいたかったのに、それは叶わない。
 側にいる選択もできたのだろう。
 でも、ここで別れてよかったのかもしれないと思う自分もいた。

(今ならまだ平気。これが一年後だったら……)

 私は春臣さんが好きだ。
 きっとこの気持ちは側にいればいるほど募っていく。
 けれど私たちの関係には終わりがある。
 今より好きになればこの痛みは耐えがたいものになるだろう。
 流し見ていたニュースでクロスタイルの名前が出る。
 びくりと反応してしまった自分に呆れながら、それでも、あの人の名残りを探して見てしまう。
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