夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
 春臣さんが肩を軽くすくめる。進さんがよくやっていた仕草に似ていると思った。
 腕の中で、改めて私を求めてくれた人を見上げる。

「明日の朝ご飯の材料を買って帰りましょう。玉子焼きも作りますね」
「そうだな」

 じわじわと喜びを噛み締める。
 もう離れなくてもいい。このまま、側にいてもいい。

「またよろしくお願いします」
「ああ」

 私の方から春臣さんの手を繋ぐ。
 それを見て、春臣さんは思い出したように小さく声を上げた。

「どうかしましたか?」
「今夜は手を繋ぐだけで済ませられないと思う。覚悟しておいてくれ」
「…………え?」

 その言葉の意味は、眠る時になってから知ることになる。

***

 ぬるいまどろみの中、ぼんやりと目を開ける。

(今、何時……)

 起き上がろうとして、自分が昨日までと違うベッドにいることに気付く。
 そして、服を着ていないことにも気が付いた。

(――!)

 慌てて毛布を胸元に手繰り寄せる。
 昨夜、春臣さんと何があったのか思い出してしまった。

(そ、そっか、昨日……)

 はっと隣を見ると春臣さんの姿がない。
 どうしたのかと思ったそのタイミングで寝室の扉が開いた。

「おはよう」

 ズボンだけ履いた春臣さんが一対のマグカップを持ってやってくる。

「ちゃんと眠れたか?」
「ふ……服を着てください……」
「人のことを言えるのか?」

 正直、昨夜は必死すぎてよく覚えていないというのが正しい。
 明るい場所で春臣さんの肌を見るのだって、これが初めてだった。

(私、本当に……)

 ちら、と見た春臣さんの背中に引っかき傷が付いている。
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