夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
 食事は外でするもの。家事はハウスキーパーがやるもの。家政婦を雇うかと思っていたとまで言った春臣さんが、せっせと夕飯の支度をしてくれる。

(こんな所も知られたら、また質問責めにされるのかな?)

「何を笑ってるんだ」

 手早く支度を済ませた春臣さんが戻ってくる。

「いえ、ちょっとおかしくて」
「俺が?」
「そうですね」
「お前ほどじゃない」

 軽く顎を持ち上げられてキスされる。
 この人のこういう行為はいつも唐突だった。
 そのままキッチンの流し台に腰を押し付けられる。
 触れるだけだったキスが次第に深くなって、当然息も荒くなっていった。

「っ……ご飯の時間、遅れますよ」
「大丈夫だ」
「明日……仕事なのに……」
「ベッドに入ったらすぐ寝ればいい」

(本当にそのつもりならいいけど……)

 諦めて腕を春臣さんの首に回す。
 事が終わってから、先にシャワーに入ろうと言えば時間稼ぎできたのではないかとぼんやり思った。

***

 ごそごそとベッドに潜り込み、春臣さんの隣で天井を見上げる。

「……最初の夜のこと、覚えてますか?」
「ああ、まあ」
「……あの時、手を繋いでくれたから好きになったのかもしれないです」

 あの夜以来、私たちは手を繋いで眠っている。
 今夜もそれは変わらない。

「早いな」
「もしかしたら、の話ですけどね」

 どの瞬間が春臣さんを好きになる決定的な時だったのか、自分でもよく分かっていない。どの瞬間も、今考えると好きだったと思うせいで。

「手を握るだけでドキドキしたんです。あんなの、初めてでした」
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